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月を青いと想うのはどんな心情か/ソラノネコさまより
2006年 12月 09日 |
◎ソラノネコさま【ソラノハナ】より誕生日祝いの小説いただきました!(感涙!)
ありがとうございます~っ!(><)Gift行き!やった!(>▽<)


注:作品の著作権はソラノネコさまにあります。
無断転載はご遠慮くださいませ。



「・・・時々思うんだけどね」
「なに?」
「君って、時々驚くような事を言うよね」
「そーか?」
「そうだよ」

学校帰りのマック。
小さなテーブルを挟んで、オレンジ色のトレイの上には包み紙に入ったままのグラコロバーバーが二つとウーロン茶とオレンジジュース、それから育ち盛りな友人が買ったポテトが乗っている。

「月を青いと想うのはどんな心情か―――ふむ、面白い。君は何を思いながら月を眺めたんだい?」

ストローの上下を確認して袋の端を破り、息をふっと吹きかけて。
宇宙ロケットよろしく丸い奇跡を描きながら渋谷の手元に落ちた袋を、渋谷はつまらなそうに丸める。

「別に。ただなんとなく」
「なんとなく。君は何の理由も無く月を眺めたということかい?」
「天文学者じゃあるまいし、意味を求めて月を眺めるやつ、いるか?」
「いる、とも言えるし、いない、とも言える。―――まぁ、そうだね。普通はふっと眺める場合が多いかな」

たとえば電車に乗ったとき。つり革の向こう側に見えた月はコンクリートの森から生まれたようにも見え、人々は何を思いながらあの月を見ているのだろうと考えた。
たとえば風呂上りにミネラルウォーターを買いに行った時。月の光を反射して銀色に光る屋根を見ながら、自分が静かな水面に沈んでいくような錯覚を覚えた。
僕にとって月は常に過去の象徴であり、現在の象徴だった。
そして、未来の象徴である事も、悲しいかな、理解してしまっている。

「・・・僕の中にある星の話をしてあげようか」
「村田の中にある星?」
「そう。―――運命、という言葉があるね。人は運命には逆らえない、とか、そういったやつだ。でも僕はそうは思わない。最初から最後まで誰が決めたか解らない運命に沿って生きるなんてナンセンスだ」
「ふぅん、それで?」

パリパリと乾いた音をたてながら包装紙を破り、グラコロ本体を取り出した渋谷は豪快に齧りつく。

「じゃぁ、なぜ人は運命を信じるのか。僕は星が関係しているんじゃないかって思う。僕が何かを決めるとき、そこには必ず星が―――月があった」
「月・・・」

口の端についたソースを紙ナプキンで拭いながら、渋谷はガラス越しに街の喧騒を照らすイルミネーションよりも淡く儚く、それでも幾億年と変わらず僕らを照らしてきた月を見上げた。

「僕にとって月は僕の歴史でもある。月の輝く夜に友を失い、月の輝く夜に命を奪われ、月の無い夜に夢を語り合い、月の無い夜に何かを願った。夜明けを待ち、過去を思い、許され、泣いた。僕は常に月と共にあった。それはきっとこれからも変わらないだろう。僕が村田健で無くなっても、僕がいつか僕である事を忘れても、月がある限り僕は僕であり、僕でいられる―――僕は月のある夜しか生きていられないのかもしれないね」

渋谷よりも出遅れて、手付かずで残されていたグラコロの袋を破く。
外側はずいぶん冷めてるが、きっと中身は熱いに違いない―――そう覚悟して齧り付くと、案の定、熱々のマカロニが飛び出して、口の天井を焼けどした。

「あっちっ、これ、PL法で訴えるべき?」
「・・・それは・・・違うと思う・・・ぞ」
「? 渋谷」

顔を上げれば、なぜか渋谷は半分程食べたグラコロを凝視している。
どうやら軽い冗談のつもりが感に触ったらしい。

「あー・・・まぁ、そうだね。これは単なる不注意であって、」
「そうじゃない。月の話だ。月は夜だけあるんじゃない。昼間だってちゃんとあるし、見える時だってある。だからお前はちゃんと生きている」
「・・・渋谷?」
「寂しいこと言うなよ。そりゃ、俺と違ってお前は四千年の歴史を覚えてるからさ、辛い事もたくさんあったと思う。だけど・・・月は一人じゃない。地球もいれば太陽だって、他の星だって仲間がたくさんいる。だからお前は一人じゃない。俺はお前のそばにいる」

シチュエーションが違えば熱烈な愛の告白だっただろう。
だが、生憎僕と渋谷は親友で、僕はウェラー卿じゃない。
それでも、伊達に四千年も『生きて』無い僕の胸さえ熱くする言葉を当然のように言った渋谷は僕の大切な片割れで、そんな渋谷が見た月は青いのだという。
僕が見た月は、白く、冷たく、暗闇にぽっかりうかんだ、瞬き一つしない白い眼のようだったのに。

「・・・青、か。君の世界は色で溢れているね。いい事だ」
「お前もだ。足りないんならほら、これもやる」

ぐい、と押し出されたのは赤い箱包みに入ったポテト。僕はMサイズにしておけって言ったのに、渋谷は迷わずLサイズを選んだ。

「赤に黄色、か。全く、渋谷を象徴するような色だね」
「? 俺が一番好きなのは青だぞ」
「あぁ、そうだったね」

遠慮なく一番長いポテトを抜き取りながら、僕はこっそり笑う。
僕はやっぱり月だった。
だけど、月でよかったと思う。
月は太陽の光で輝けるから―――僕には渋谷という、太陽がいるから。

僕は、一人じゃない。

「・・・綺麗な月だね。今日は満月だ」
「あぁ。綺麗だよな。餅もつきたくなる訳だぜ」
「はは、餅ね。そう言えば知ってるかい?月に住む兎はね―――」

今日の月は、淡く透き通った青。
始めてみる青い月が曇った窓ガラス越しに僕と渋谷を見下ろしていた。

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by pontika | 2006-12-09 00:01 |